刀剣×情報系 刀剣自由研究展

刀剣×情報系Webオンリーイベント刀剣自由研究展の企画ページです。

情報系まとめ作成者に聞く!(vol5:セキレイ様)

お名前

セキレイ

出している本/ネップリの主な傾向やコンセプトを教えてください(刀の調査/刀以外の調査/旅行記 等)

刀の来歴調査

あなたのテーマ周辺で、浅く広く系のおすすめ本をMAX5冊くらいまで教えてください

(1)新聞アーカイブ
 旧大名家にあった頃に展覧会に出陳されていることなどが追って行ける。
 献上刀の話をひろえることも。
(2)日本刀大百科事典
 いろいろ間違っていることが書かれていることも多いけれど、
 お目当ての刀剣に関してはとりあえずはここに書かれたことは把握すべし。
(3) 寛政重修諸家譜
 幕府編纂の大名家の家譜。11代将軍家斉の時完成。
 書かれていることが真実かどうかはさておき(特に江戸時代以前)、
 推しの武家があったらまずチェック。
 下記の寛永譜と比較して内容の検証はそれなりにされているらしい。
 大きい図書館にはあると思う。
(4)寛永諸家系図伝
 幕府編纂の大名家の家譜。3代家光の時編纂。
 書かれていることが真実かどうかはさておき(特に江戸時代以前)、
 推しの武家があったらまずチェック。
 当時の大名家から提出されたほぼそのままが書かれていることが多いらしいので、
 (故に史実でないことも多いのではあるが)
 その頃その家がどのような内容をお家の歴史としていたのかが伺える。
 大きい図書館にはあると思う。
(5)推しの家(大名家)が編纂した家譜
 幕府編纂の家譜とは内容が異なることも書かれている。
 編纂時期の異なるものが複数存在することも。
 その家の宝刀にかんする記述は、上記(3)(4)の家譜よりも手厚く書かれている気がする。
 翻刻化されたものがどこにあるのか探すのが大変かもしれない。
 大抵の家の家譜は東京大学史料編纂所アーカイブで写しを見ることができる。 

あなたの調べているテーマに該当する、深くコアな内容のおすすめ本をMAX5冊くらいまで教えてください

「鶯丸の来歴研究」に特化したとき
(1)嘉吉元年五月二十六日足利義教御内書(勝山小笠原文書)
  足利義教から小笠原政康への鶯丸の感状(宮内庁蔵)
  写しは東京大学史料編纂所
  信濃史料などで翻刻されている。
(2)菱実紀聞 西門蘭渓著 天保安政の頃
  小笠原家の侍医による、小笠原家古記録のまとめ。
  鶯丸が小笠原家の第一の宝刀であったことがよくわかる。
  (福井大学明治大学が所蔵している)
(3)伯爵田中青山 澤本健三編 田中伯傳記刊行會, 1929年
  鶯丸を明治天皇に献上した田中光顕の伝記。光顕へのインタビューも載っており、
  鶯丸に関して語られている。
(4)信濃小笠原氏 花岡康隆編著 戎光祥出版 2015年
  鶯丸を所持していた小笠原氏の室町時代のことに関する論文集。
  最新の研究に基づく、室町時代の小笠原氏の総論もあり。
  政康死後の家督争いや、それが重宝をめぐる争いとされたことに関してなども。
(5)新聞アーカイブ
  鶯丸の明治の動向はほぼほぼ新聞からたぐれる。特に読売新聞のヨミダス。
  ただしこれはかなり異例の事。
  
次点 名士と刀剣 小倉惣右衛門著 雄山閣 1935
  鶯丸の所持者であった宗重正は刀剣商の小倉惣右衛門を懇意にしていたため
  重正が所持していた頃の鶯丸に関する情報がちょくちょく出てくる。

調査を始めたきっかけを教えてください

最初は二次創作とかに面白いネタないかなぁと。
ドはまりした理由は明治の頃の来歴が刀剣書に書かれたものと全然違ったことなど。あと、鶯丸が下賜されてからすぐの小笠原家の泥沼の家督争いに興味をもったこと。

(ネット公開/ネップリ/本など形を問わず)発信したきっかけをおしえてください

かる~いまとめは、鶯丸を所持していた小笠原家が茨城県(私の居住県)にいたことがあって、おっ?と思い追っかけてみると引っ越しが多く、引っ越し歴を地図に記したものが最初。なんとなく自分としては出来がよかったのでツイートしてみた。

本格的なまとめレポートは、鶯丸がフクレがひどかったらしいとかの説が広く流布していて(私も最初はそうなのかと思っていた)、でも調べて行ったらそんなことなくて、明治刀剣界のひとつの象徴的事象とも言えるくらいすごい評価されていたことを知って欲しくて発表。その時はネップリと自サイトでのPDFフリーダウンロード。

集めた資料はどんな感じで管理していますか?(保管およびインデックスつけ等)

主に図書館等でコピーしてきたものが多いので、ざっくりとした傾向のタイトルをつけてファイルに綴じている。例えば「勝山小笠原」「小倉小笠原」「室町時代守護職」「信濃の歴史」「家譜類」「刀剣書」「明治新聞」など。タイトルのセンスがないのと、あまり整理できていないので、どこに何が書いてあるは、記憶を頼りにしているが覚えていないので結局全部めくる羽目になる。自分のまとめレポートの参考文献欄が非常に参考になる。

本を作るときのざっくり手順やスケジュール感、こだわり等々を教えてください

まず、書こうと思っている内容で章立てをして、章・節・小節のタイトルをつけて、それぞれの内容に肉付けをする。
時折、目次を確認して流れのバランスを見る。
(私の使っているソフトは章や節のタイトルを入れてコマンド入れると
目次を作ってくれる)


入稿手順
PDF原稿で入稿できるところだったので、何も考えずにPDFに変換したものを送りました。
表紙もPDFなら色味のRGBとかCKMYとか?面倒な事考えなくて良いようです。
(あまり凝った表紙でないので)
紙の端まで模様とか図とかがなければ、断ち切り(印刷サイズより余白をとって出力)とかいらないようです。
県内の印刷所だったので、直接行って色々と確認させてもらいました。
(はじめてだったので)

スケジュール感
本を作ったのは今のところ昨年6月の第一回刀剣自由研究展に合わせてのもののみ。
締め切りがあったので作れました。(締め切りギリギリでした)
図書館が閉鎖されている時期のことだったので、出来るところまで、手元にある資料からだけで良いという割り切りが出来たので出せたともいえる。
12月に出そうと思っていたのはのびのびです。

こだわりについて
色々とセンスがないのはわかっているので、外装やレイアウトはこだわらないようにしています。
参考文献はきっちり書く。(これはこだわりというよりは必要事項。)

冊数は、アンケートを取ってみて2倍くらい刷りました。
半年くらいかけてほぼ完売。
小倉小笠原本は追加の資料がたまってきたので、改訂しなきゃなぁと思ったタイミングで完売したので良かったかなと思います。
具体的には、アンケートで70部(50だったかも)だったのを150部印刷。
宣伝はウェブ上で開催のイベントなどを利用。
刀剣調査系イベント(刀剣自由研究展)、歴史創作系イベントや
黒田刀剣オンリーのイベント、江刀オンリーのイベントにも申し込んで売り込み。
特に、黒田や江オンリーのほうは普段は調査系とのマッチがなかなかしづらいので
存在を知ってもらってよかったと思います。

最初は何かのタグやイベントにのっかって存在をアピールしてみるほうが、その情報を欲しい層とのマッチングが取れると思います。

(本)初めて本を作ったときに困ったことと、どんなふうに解決したかを教えてください

印刷や入稿に関してはなんかよく分からなかったので、印刷所にメールして色々お問い合わせ。県内の印刷所だったので、最終的には直接行って確認。

(本)印刷所選びの基準を教えてください

特にこだわりがなかったので県内しばりで印刷所を選びました。

(本)印刷所用の原稿を作るとき、表紙と本文それぞれどのようなソフトを使用していますか?

表紙→パワーポイント
   表紙利用可のフリーの絵をパワーポイントに張り付けてタイトルをいれてPDF変換
   
本文→TexWorks (フリーソフト
   Tex組版処理システムで理系の論文などを書くのによく使われます。
   参考文献のナンバリングや目次の自動作成をしてくれる最強ツール。
   TexWorks はそのエディターのひとつ。

挿絵→パワーポイント
   相関図とか単純な絵が多いのでパワポの描画機能で十分でした。

あなたの資料の探し方を教えてください

google書籍検索です!

検索ワードを色々変えて、なんかちょっと気になるヒットがあったら図書館で実際に調べてみます。空振りも多いですが。予想以上のものや予想外のものがヒットすることも。
活字化されたものにしかきかないので調査の方向性によっては役に立たないかも。

あと、あたりまえですが刀剣の動きには必ず人間が介在するので、関係人物を研究するようにしています。

近現代の人物について扱った、あるいは扱いを検討したことはありますか?ある場合、どのような配慮をしましたか?

武家と刀剣」が私の調査の主なテーマのひとつなので、そのお家を離れるくらいまで、もしくは戦後直後くらいまでを調査対象にしています。
来歴を調査しているので、「誰が所持していたか?」の”誰”に明らかにする深い意味がなければ、イニシャル表記にしたりもしています。

まあ、個人蔵の場合、最近の所持者とかにはあえて踏み込まないようにしています。

伝承がたどりきれなかったとき:資料をたどっていって、一旦行き止まりになったときにどうしますか?

行き止まりになったところで、”ここまでわかっていること”を公開すると思います。
”書籍""という形ではなく、レポート的なものをツイートなり、ネップリにすると思います。公開することで何か情報が寄せられるかもしれませんし、公開した後に重要な資料が見つかるというゲン担ぎもあります。
あと、一度きっちりまとめることで手持ちの資料の内容への理解が深まることがあります。

重要な資料の存在を教えてくれた方などはいますか?まとめる上で特別な扱いや事前のお話などしましたか?

資料に関しては教えてもらうこともありますし、自分からこんな資料がありますと興味をもってもらえそうな人にこちらから教えることもあります。
”この人はこの方面に関する資料を集めている”という事がわかっていると、情報が集まってきます。同じ刀剣でも、調査の方向性によって興味を覚える方向性が異なると思いますので、私の場合はまとめレポートや同人誌の内容を読んでから、情報提供しています。誰にささるか分からんが、刺さる人には刺さるのかも~という情報は、参照をはっきりさせてツイートしてネットに放流したり。それが切欠で質問が来ることもあります。


教えてもらった資料や、先人のまとめに書かれていた資料に関しては、程度によりますが、まとめるときに発表内容の根幹にかかわるものすごい資料というものでなければ特別な扱いはしないと思います。明治以降に活字化されている文献、翻刻化されている古文書類であればそこまでは必要ないでしょう。
活字化がまったくされていない史料を参考にするのであれば、その史料に行きついた”まとめレポート”が存在するはずなので、それをrefer します。
ツイートでちらっと言ってたものの場合は、引用リプで参考にしました~ありがとサンクス!とかはありかなと思います。

マイナスの印象を与えるようなテーマを扱うか検討したことはありますか?どのように対応しましたか?

ゴング鳴らしましょう!
特に特別な対応をせずにありのままを記載します。
と言いたいところですが、どれだけデリケートなことかによりますね。
Case by case としか言いようがないです。

そのネタ知りたい!気になる!どんな内容でも受け止めようぞ!
と、私は思いますが、皆がそう思うかは・・・ですね。

大戦がらみでとある旧家の刀(実装刀とか有名なものではないが)に関して、あまりウキウキする話ではないかなーといった話は今のところ表にださなかったりしているのもあります。これもまた刀剣の一つの歴史ではあるのですが。
(負の歴史と捉えられるかも。)

世上に広まっているエモい逸話やらなんやらを検証し、否定するといったことであればイケイケどんどんです。

信頼性の低いネタは扱いますか? 扱う場合には何か気をつけていることなどはありますか?

信頼性の低いネタであったとしても、なにがしかの資料に記載されていたら「この資料にこれこのように書かれている」ということと、なぜ信頼性が低いと考えられるのか?を記載します。
諸説ある場合も、かならず諸説を併記します。その中で、どれが確度が高い情報なのか、なぜそう考えるにいたったかを記載する。例えば、書かれた時代・発信者の立場・他資料と比較したときの時系列の矛盾・大元の時代の史料には全く書かれていない話が近現代になって唐突に載っている等。
またソースが存在せず、ネット上での噂の様な形で流布している説も「ネット上でよくみかける説で~」と注釈して、書くこともあります。
そうでないと、読み手がその「信頼性の低いネタ」や「ネット上での噂」(例えば事象Aとする)しか知らない場合、「筆者は事象Aのことを知らないで論じているのだな」と思われることを防ぎます。(筆者が検証された新説を知らずに、すでに否定された旧説を元に論じているように思われかねない。)

特に、昭和の頃に盛られた話やらなんやらは、江戸時代の史料に書かれたものがあるのか?江戸時代は難しいまでも昭和から明治まで遡っても、同じような話が書かれているか?などなど。
ですが、遡って”ないもの”を探すのは非常に難しいので、遡れる限りで「昭和xx年発行のxxという資料には事象Aと書かれている」という書き方にします。


家譜等の内容に関しては、「〇〇譜には~~~と書いてある」と書けばよいのかなと。
ある意味家譜っておれんちすげーーー!なので正しいことが書いてあるわけではない前提なので。可能であれば、最新の研究とも併せて書ければよいですが。

調べてみたら予想と違ってびっくり!となったことがあればおしえてください

明治以降の近代のことでさえ、誤伝が多いこと。
特に鶯丸は明治の来歴は間違って伝わっていることが多いです。
大元の情報源は噂話とか聞きかじりの世間話なんだろうなぁといったところです。
その頃の来歴に関しては、「研究成果」として残された情報ではないのでいたしかたなしだとは思いますが。

まとめたことで、何か得たもの、あるいは起こった出来事、思わぬ反応などありましたら教えてください

(1) セキレイは鶯丸のことを調べているのだ、とか小倉小笠原家の刀剣を調べているのだという事を知っていただいたことで、様々な情報提供をいただけていること。

(2)微々たることではありますが、経済活動に貢献しているなーという満足感。
(私が本やネップリを作らなければ動かなかった経済なので)

何か補足だったり、語りたいことがあればどうぞ

調査をしていると、自分が素敵だなーと思ったエピソードも自分の手でぶっ潰すことになったりもするのでそこそこタフでないといけないこともあります。
ですが、忘れられそうになっている推しの歴史(記憶)を掘り起こすことができるのも調査勢ならではの醍醐味なのです。

これから調査してみる/まとめを作ってみる方に向けて一言!

スタンド使いスタンド使いに引かれ合うように、資料には資料が引かれてやってきます。
また、ちょっとしたネタをTLに投げかけると波紋が広がり、時として連鎖反応が起こり、思ってもみない方面から思ってもみない情報が得られることもあります。
一人で出来る調査には限界がありますが、集合知となれば自分だけでは到達しえなかった忘れられた推しの歴史に、もしかしたらたどりつくことができるかも?